(追記に日記ログ)
今から少し前。
優しくて素敵な水の魔法使いの誕生日を数日後に控えたある日の出来事。
カディムがこのところ酷く神経質になっているのは分かっていた。
その上、これは私の許しがなければまず何事も己からやろうとはしない。
しもべなのだから当たり前ではある。
しかしやりたい事があるのなら、なしとげる為の許可をさっさと求めれば良い。
これは許可を得る為の言葉を喉奥で飲み込むのだ。
控えめと言えば聞こえは良いが、何のことはない、愚鈍なだけだ。
求める事や問い掛ける事にためらいのないのが私達の種族の特徴である筈なのに。
それとも、契約を交わししもべとなったものはその部分も変質するのだろうか。
あの赤い夢の中での事を、私は全てが終わった瞬間に知った。
おそらく夢が続いている間は、夢を支配していた力により告げることが出来なかったのだろう。
カディムがどこか「ここでない場所」へ行っている事は分かっていたが、それ以上は知らなかった。
私が島の理に縛られているように、カディムも夢の理に縛られていた。
夢が終わり、全てを知った私の元にカディムが戻ってきた瞬間。
流れ込んできた悲鳴は、私の脳裏にこびりついている。
カディムは疲弊していた。
これは私達以上に、精神状態で存在の有り様を左右される。
その後しばらく人型を取れなかった程だ。
笑ってしまう。
いつだってお前は、私は、何かに縛られていて、息をするのだって難しい。
けれど、お前は言いたい事があるのだろう?
私に言えないのなら、言いたい相手に言えばいい。
「レン! レン! 散歩に行こう! 花の咲いた木を見付けたんだ。近くで見ても、きっと綺麗だよ」
優しくて素敵な水の魔法使いの誕生日を数日後に控えたある日。
私は唐突に叫んだ。
「は、ハイダラ様……!」
何かに感づいたのか、カディムがぎょっとしたような顔で私を振り返る。
こんな時だけ鋭くてどうする。
「煩い。今日は二人で行きたいんだ。ゆっくりしてくるから、カディムは留守番。ロージャ、本当に済まないが、カディムの相手をしてやってくれないか」
私が我が侭を言っているように聞こえればいいんだが。
いきなりの提案に驚いたレンは、それでも笑って頷いてくれた。
ロージャも、笑いと呆れまじりの優しい声で、『行ってらっしゃい』をくれた。
カディム。
許可をやろう、お前がそれを欲しいのなら。
それが私のつとめでもある。
私のしもべ。
愚鈍で弱い絨毯。
愚鈍で弱くて、小さくて、古くて、……美しい絨毯。
「『カディム、ロージャと話すといい』」
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消えてしまった手紙と日々の覚え書き
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