(追記に日記ログ)
暑さにうだるのも飽きてきた。
しかしこの季節。いくら飽きようと暑さが退いてくれるはずもない。
「ううう、お前たちの魔力が、たっぷりあれば、こんな熱気、吹き飛
ばせるだろうに……」
「申し訳ございません。我らが至らぬばかりに……」
「う、いや、まあ、うん……」
「いや、この木陰のおかげで随分ましだ。助かってるよ」
木陰は「猛烈に暑い」を「暑い」程度に押さえ込んでいるからすごい
とレンはいうし(まあそういうレンも上着を脱ぎシャツの襟をあけ腕
をまくっている)、正直私も、この島でこの木陰を維持しているしも
べたちの働きを労う気持がないわけではないが、それでも私には随分
暑い温度なのだ。愚痴くらいはいう。戦う為に魔力を温存しなければ
いけない己が口惜しくもある。
カディムはいつも通りの格好だ。
襟の詰まった長衣に飾り帯に、長ズボン。
レンに暑くないかと問われると「いつもより暑いな、とは思いますが、
脱ぐほどではございません」と返事をしていた。見目が暑苦しい、と
私が文句をいえば「わたくしごときのものが、礼を失する格好で御前
に罷り出るわけには参りません」とにべもない。
まあ、カディムは暑さ寒さよりも、魔力の増減の方が堪えるたちだ。
ゆえに木陰を維持する為に使う魔力が増えた分、疲労の色はある。
私ほど目立たない――そして騒がない――というだけだ。
『ハイダラは暑さに弱いよねえ。大丈夫?』
「うう、ロージャ。心配してくれてありがと……あ、ちょっとひんや
りしてる……」
金属で出来ているロージャの、杖としての体をぎゅっと握ると少しだ
け冷たくて、滑らかな表面が心地良い。ぺったり抱き寄せて頬をつけ
る。
『ははは、なんだか照れるよ』
「あ、もうぬるくなった」
『せっかく照れたのに!』
ぺい、と柄を手放した私に、ロージャが笑いながらちかちかと鉱石を
光らせた。私もおかしくなってくすくす笑う。レンも笑い出して、カ
ディムも目を細め、口端を少し持ち上げた。
笑って少し元気が出てきた。また奥の泉で泳いでこようか。
そうだ、魔力で氷を作って浮かべたら気持いいかも知れない。
そうだそうだ、そうしよう。
その後は海に行っても良い。
それから何か綺麗なものを見たい。
暑さに萎れ辟易とした気分が、じわじわと思考から追い出されて行く。
夏の祭は始まったばかり。
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Thanks! 【SummerVacation 2010】
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消えてしまった手紙と日々の覚え書き
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