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白灰色の畔
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(追記に日記ログ)

 
『カディムー、今日は夕飯何作ってるの?』
「海老と貝の香草蒸しでございます」
『お、ちょっと豪華?』
「はい、市で食材を揃えることができましたので」
『遺跡外だしね。なかなか中じゃ調達できないしなぁ』

炉端からロージャとカディムの会話が聞こえてくる。
木陰も日が暮れるのが早くなり(木陰はそれなりに外界の影響を受けるから)、最近では炎の気配がいっそう心地良くなった。季節が移ろおうとしている。
和やかな声で続く会話を聞くともなしに聞いているうち、ふとじゃれつく子猫を思い出した。ロージャに言ったら拗ねられそうだ。

『それにしても遅いな、レンジィの奴。もうじき夕飯ができるってのに』

不服そうなロージャの声には、心配半分、寂しさ半分の色合いが滲む。そう、レンが出かけたまま、帰っていないのだ。

「まだ買い物を続けておいでなのかもしれませんね。市は大層込み合っておりましたから」

確かにカディムの言う通り、市はいつも人でごった返していた。私など、綺麗なものを見に行くとき以外、あの人ごみにわざわざ分け入る気にはならない。買い物はしもべの役目だし。
レンも人ごみはあまり得意ではないと言っていたが、彼はそれでも市が好きなようだった。ヒトだから、慣れているのかもしれない。
だがそれらを考えに入れたとしても、今日は妙に帰りが遅い。
酷く遅くなる時は大抵事前に言いおいて行く彼が、何も言っていなかったのに。

『ならいいんだけどね、変なとこで迷ってなきゃいいんだけど』

ぶつぶつと不機嫌そうなロージャに近づき、彼の文字盤を見上げる。

「――ふふ、レンがいないと寂しい?」

ふかふかの大きなクッションを抱くようにしながら話しかけると、ロージャは慌てたようにちかっと鉱石を光らせて、

『さ、寂しいとかそんなんじゃないさ! 全然!』
「本当?」
『本当本当! ただ、その、最近あいつぼんやりしてるから、ちょっとぐらいは心配してやってもいいかなって思っただけ!』
「……そうだね、私も少し、気になっている」

……そうだ、彼は、レンは、最近酷くぼんやりしている。
とにかく様子がおかしい。集中出来ていない様子なのに、妙に魔力が高まる時がある。かと思えばゆるゆると流れ出してでもいるかのように力が弱まり、そしてまた強くなる。
息が凍っているのも心配だ。寒さの中で温かい息を吐いたかに見える白が、それとは全く逆に、微細な氷の粒であると説明された時には驚いた。

実際、それが無意識に行われているというのも厄介だ。
温度を下げているのは間違いなくレンジィで、それには魔力を使っているはずなのだ。なのに、使っている事にすら気付いていない。
朝から晩まで、起きている間も、眠っている間も、常に使われ続ける力。
力が単に溢れて余っているのならまだ良い。けれど……。

「――!」

私の思案を遮ったのは唐突に現れた気配だった。カディムも同じものを感じ取ったのだろう、私達はほぼ同時に上を見た。
……何といえば良いか。妙なことが起こっているようだ。

『どうしたの?』
「いや、レンが帰ってきたのかと思ったのだけれど……カディム、一人多くはない?」

頭上で唐突に、気配が生まれていた。
レンと、レン以外の何か。

カディムへ確認するように視線を向けると、しもべも頭を垂れ、

「レンジィ様ともうお一方、どなたかがいらっしゃっておいでの様子です」
『え、あいつ帰って来てるの?』
「ええ」
「もうこの木陰には来ているはずだ。来る途中で誰かに会ったのかもしれないな、少し不思議な気配の人が側にいる。……二人とも姿が見えないのが、気になるんだけれど」

不思議だ、と続けようとした、そのとき。


「わああああ!」


突然、叫び声が響き渡った。


「!」
『な、何だ?』

私がクッションを離して身を起こすのと、カディムが炉の火を一瞬で消して身構えるのはまたしても同時だった。私の見上げる先を、しもべも細めた目で見透かすように見上げている。

「レンの声だ」

死にものぐるい、とまでは行かない声音であったのが救いだ。だが、何にしろ声を上げるほどのことが起こっている。警戒するに越した事はない。『レン以外の何か』の気配を探りながら、私も頭上を見上げる。
気配は、大きい。一つだが、大きい。強い。

『あの馬鹿、一体何に巻き込まれて――!』

ロージャの息を飲むようなつぶやきに続いて、緊迫したその場にはあまり似つかわしくない、大きな羽ばたきの音がした。大きく力強く、でもどこか柔らかい音。
その直後、

「うぉわぁっ!」

2度目の叫び声とともに、何かが――レンが、落ちてきた。
どさっという痛そうな音とともに落下した彼は、私達の目の前で痛い痛いと言いながら体を摩っている。……どうも大きな怪我や問題はなさそうだ。
彼の青い目が、たっぷりと恨みがましさ込めて、上を、レン以外の気配を、見上げた。

「い、いきなり何するんですかっ、貴女って人は!」
「やかましいぞ、二本足でちんたら歩くより余程速いだろうが。現にもう到着しているじゃないか」
「だからって亜空間飛んで移動するこたないでしょうに! そう言う魔力の無駄遣いはやめて下さいよ本当!」
「無駄遣いとは何事だ。お前も魔法使いの端くれなら空ぐらい飛んでみせろ」
「魔女じゃないんですから無理ですって!」
「私とアダマースが作ってやったあの杖にでもまたがればいいだろう」
「気色悪い事言わないで下さいよっ、またがりゃいいってもんじゃないでしょうが! ……ああ、もう!」

立て板に水とはこういうのを言うのかな。見事な掛け合いだ。
ロージャにまたがるのか、と想像して場違いにも何となくおかしくなったりしたのは、レンにも、もう一つに気配にも、緊張や敵意がなかった所為だ。

レンが溜め息をつきながら立ち上がると、その隣に、ゆったりとした動きで紅い影が舞い降りてきた。見事な赤毛の短髪に、深紅の目。
しかし私は、暗めの赤とベージュの柔い色合いをもつ大きな翼に、つい目をやってしまう。翼のある種族だ。

「……あー、ごめん、皆。本当は歩きで来たかったんだけどこの人がどうしても飛んで行くとか何とか言い張って」

レンが申し訳なさそうに頭をかきながら、言い訳のような口ぶりで私達に話しかけると、

「私をガキみたいに言うんじゃない」

翼のある紅い人から、間髪入れず間の手が入る。

「先生はちょっと静かにしてて下さいお願いですから。……えーと、ハイダラ、カディム。この人は俺の魔法の先生の、フェダ・ガルサ・ロル先生だ。……先生、あの人らは俺の仲間のハイダラと、その従者のカディムです」

思わず、ぱち、と瞬きしてしまった。なるほど、彼女が『先生』か。
紹介を受けたカディムは、すっと身を屈めて跪いた。しもべの弁えた態度はそのままにして、私はつくづくと目の前の『先生』観察する。

見かけは若い。十代後半に見える。しかしその見かけに反して三十を越える自分よりずいぶん年上なのだと、父親の友人なのだと、以前レンから聞いていた。
感じる魔力もずいぶん大きい。流石は有翼だ。

「ハイダラとカディムとやら、話は聞いているぞ。まずは私の馬鹿弟子が世話になっている事に対して礼を言わせてくれ。ありがとう」

そう言うと『先生』は、羽根を軽く揺らして笑いながら、

「ここに押し掛けたのは他でもない、しばらく私もこちらに滞在するから挨拶をしておこうと思ったからだ。私の事はフェダでもロルでも好きに呼んでくれ。では、宜しく頼むぞ」

と、続けた。

「……ふふふ、礼はいらない。だって、レンに私が世話になっている、の間違いだもの。初めまして、フェダ、いや、ロルの方が良いのかな? 私はハイダラ。ようこそ、狂った島を楽しむ地へ。それに、木陰に来てくれて嬉しいよ。こちらこそ、よろしく」

私も挨拶を返しながら、手を差し出す。
そうだ、大事な事があった。忘れずに言っておかないといけない。それは……、

「ねえ、握手のあと、あなたの羽根を触っても良い?」

カディムが俯いたまま目をむいたようだが、知った事か。
羽根があれば触りたいと思うのは当たり前だろう?

ロルは一瞬驚いた様子だったが、すぐに笑って、

「ははは、構わんよ。好きに触ると良い。……代わりと言っては何だが、私にはあなたの姿と種族がとても興味深い。後でその事についてゆっくり話をしてみたいんだが……ひとまず、今は握手が先だな」

と言いながら、楽しげに私の手を握り返してくれた。



そんなやり取りのさなか、一瞬、ロルの目がロージャに向けられていた。
眼差しで語られたものが何なのか、あとで聞いてみた方が良いのか、それとも、知らぬ振りをするべきか。


まあいい。羽根を触らせてもらいながら考えよう。

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ハイダラ。
白灰色の男が呟く独り言。
時折、夢も見ている。

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