【Vol.3】(クインスのブログへ)
密やかに、密やかに。
夏の宵にはどこか秘密めいたところがある。
それはこの不思議な島であっても変わりない。
闇の中、濃密な命の気配がうごめく。むせ返るような夏の息吹。
夜空には満天の星が輝き、天の川がくっきりと浮かび上がっていた。
そして、夏の宵は眠らない。
日が暮れてもあちこちからさざめきが聞こえてくる。
なにしろ、島で最後の夏祭り。皆は様々な楽しみを満喫するべく余念がない。
元から何かにつけて祭好きな探索者達だ。
名残を惜しむ気持と相まって、祭はいまだ終わる気配を見せなかった。
花火があがる。
きらびやかに花開き、どおん、どおん、と低く響く独特の音が続く。
立て続けに打ち上げられる光の花は、華やかでどこか儚い。楽しむように、惜しむように、遠くで歓声が上がっている。
ここは静かだった。
ひそひそ。
微かな声は夏の夜気にまぎれる。
ひそひそ。くすくす。
秘密めいた囁きに、忍び笑いが続く。
どこか似た様相の男が二人、小さな声で囁き合っていた。
白から緑へ変じて行く不思議な髪を持った男が、触覚を揺らして笑う。すると、ふわりふわりと頭にある花も揺れた。咲き乱れる花は、どうやら男から直接咲いているようだ。
白灰色の髪を持った男が首を傾げて微笑む。その動きに合わせて髪に飾った沢山の飾りが揺れ、しゃらりという涼しい音が笑い声に重なった。
ひそひそ。くすくす。ふわふわ。しゃらしゃら。
触覚のある男が、自分の花を一輪つんだ。何やら囁きながら、その花を白灰色の男の頭に飾る。
薄桃色の柔らかな花びらを持つまるめろの花が、ふわりと白灰色の上で揺れる。
くすぐったそうに飾られるのを待っていた白灰色の男が、今度は自分の髪の先に付けていた小さな羽飾りを外した。煌めく貴石に羽を繋いだ飾りを差し出す。
緩く波打つ白と緑の髪に、薄青い羽飾りが飾られる。
ふと、見つめ合う。
夏の夜風に、花が、飾りが、揺れる。
くすくす。くすくすくす。
囁きと笑みはその後もしばらく続いた。
二人が何を話していたのか。
星空だけが知っている。
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Summer Vacation 2009 【Vol.3】
Special Thanks!
企画:Summer Vacation
ジャフティ-JJ(217)さん
出演:クインス(588)さん
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【Vol.2】(レンジィのブログへ)
「わあ! 綺麗! きらきらだ!」
「ん? 私に? あ、ありがとう。これは何だね?」
「氷水で割った果実酒でございます。梅の香りがして、暑い時には美味しゅうございますよ」
「ほら! これなんてまるで桃色の真珠のよう!」
「わああああ! レンジィの馬鹿! 何をするんだ! 馬鹿ー! 水面が! 近い近い!」
「わははははー! ほーら、ほーら、生意気ばっかり言ってると浸けちまうぞー」
「ちょ! 馬鹿! ほんとに、ッ、わっ! 飛沫が! 飛沫がかかった!」
「これ本当に貰っていいの? 貝殻もガラスもとても綺麗だよ!」
「ああ、良いぞ。割れてない桜貝とかすげー綺麗だろ?」
「私の拾ったガラスもなかなかのものだろう? そんな高価なものが落ちているだなんて、最初は驚いたが……」
「み、みんな! 和やかに話をしている場合じゃないだろうっ! 僕が水没したらどうしてくれるっ! か、カディム! カディムー!!」
「……レンジィ様、お飲物はいかがですか? それと、あの……、その、ロージャ様を、お拭き致したいと思うのですが……」
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Summer Vacation 2009 【Vol.2】
Special Thanks!
企画:Summer Vacation
ジャフティ-JJ(217)さん
出演:レンジィ(176)さん
アルジャン(381)さん
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【Vol.1】(アルジャンのブログへ)
夏の海はきらめく光に満ちていた。
巨大な入道雲が白き山のごとくそびえ立ち、天空に座する太陽はみなぎる力を惜しげもなく注ぎ、地上にあるものたちを区別なく焦がして行く。
「暑くはございませんか?」
側に控えていたカディムが、微かに気遣わしげな声音で訊ねた。海から少しだけ離れてしつらえた場所で、ハイダラは日除けの布の下にいた。強い日差しはあまり得意ではないので、最初から居心地の良い場所で寛ぐ作戦だ。もちろん陽光で灰になってしまうような事はない。単純に暑いのと眩しいのと日焼けが嫌いなのだ。
「暑いけれど、まあ、問題ないね。見てご覧、あそこ」
軽く顎で示した先の渚では、レンジィとアルジャンが歩き回っていた。泡立って打ち寄せる漣の波頭に足先を洗われながら、時折腰を屈めたりしている。
「ああ……、楽しそうなご様子で」
波音と一緒に、小さく話し声が聞こえてくる。カディムの言う通りそれは楽しそうでのんびりとして、時に軽やかな笑い声が混じった。主従はその光景を眺めつつ、少し笑った。
「何を拾っているんだろう? 貝? ガラス?」
以前夏の海で拾った宝物を思い出しながらハイダラが呟くと、カディムが頷いた。
「はい。おそらく貝殻やガラスでございましょうね。ハイダラ様も波打ち際へお出ましになりますか?」
「うーん、綺麗なものを拾いたいのはやまやまだけれど、日差しがなあ」
太陽は真鍮の鏡のようだ。光球は円を描き、高く上った極みからぎらぎらと照りつける。今は昼前。多分これからもっと暑くなる。
「お召し上がりになりますか」
静かな所作で差し出された盆には、魅惑的なものが乗っていた。
「ふふ、ありがとう。中から冷やさないと追いつかない」
素直な礼の言葉に、カディムは気付かれない程度に僅かに目を細める。主から賜るねぎらいの言葉は、どんな簡単なものであってもやはり嬉しい。
露の浮いたグラスを受け取ったハイダラが、よく冷えた飲み物を口に運ぶ。喉から腹まで、体内を涼しく心地良いものがすっと流れた。
沖から潮風が吹き、梢に張った日除けの布が柔らかく揺れている。
ハイダラの髪も外套もゆるく掬われ、大量に身につけた飾りがしゃらしゃらと音を立てる。
「……妙な気配だ」
ひとり言のような声に、カディムがハイダラを見る。
「……島が」
「御意」
「あちこちの波打ち際で夏休みを楽しんでいるもの達の気配は心地いい。……けれど、多分、皆、……レンもアルジャンも、気付いている。……今は考えても仕方のない事かもしれないが」
光が分解されて、小さな影一つ一つに淡い紫色や緑が生まれる。
ゆるゆると踊る淡い光の欠片たちは、全てを甘く儚く彩っていた。
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Summer Vacation 2009 【Vol.1】
Special Thanks!
企画:Summer Vacation
ジャフティ-JJ(217)さん
出演:レンジィ(176)さん
アルジャン(381)さん
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消えてしまった手紙と日々の覚え書き
- ENo.1457
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